This is a Japanese translation of “Global economic inequality”
by Max Roser
健康で、裕福で、教養のある人になるために最も大事なのは、個人の資質ではありません。どこに住んでいるのかという点です。
もちろん、あなたの培ってきた知識・教養、努力を無視するわけではありません。しかし、経済的に豊かな工業国に生まれたかそうでないかは、あなたの大きく運命を左右します。
世界的には膨大な経済的格差があります。下の図表を見て下さい。ここで扱う全てのデータは各国の物価事情を考慮したものです。
世界中の大多数は、ほとんど富を所有していないことがわかります。世界でも貧しい人々(世界人口のおよそ半数である)40億人は、一日あたり6.7ドル以下で暮らしています。
もし、あなたが一日30ドルの生活をおくることができているのなら、世界で最も裕福な上位15%に入ります。(ちなみに、高所得の先進工業国での貧困ラインは一日30ドルとされています。)
所得格差は一国内のなかでも非常に大きくなり得ます。高所得国である米国はその典型的な例です。しかしながら、国家間の格差とは比になりません。小さな表に、ブルンジとアメリカの所得の分布を示しました。
経済的格差は生活の質にも大きな影響を及ぼします。
経済的格差は、世界の不公平さを測る尺度ではあるものの、所得以外にも人々にとって大事なものが沢山あります。
しかしながら、所得が高いければ、高い生活水準を実現できるということも事実であることから、やはり所得は重要であると言えます。所得以外の格差も、実質経済的要因に行き着くと考えられるできるでしょう。お金があれば、様々な点において、有利な立場になります。
これらの図は、所得別に、12の観点から生活水準を表したものです。
全ての図の横軸は一人あたりのGDP(国内総生産)つまり一国内の所得の平均値の指標です。左上から順に見ていくと、所得の高い地域ほど、長命で、子どもの死亡率も低く、母親が妊娠や出産で命を落とすことも稀になります。医師はより少人数の患者の治療に専念することができ、適切な看護が可能です。また、人々は清潔な水や電気を使うことができ、より頻繁に旅行し、自由に過ごせる時間があり、教育を受けやすく、学習成果を上げています。そのような人々は自分たちの人生により満足していることがわかっています。
このように生活水準の差は、世界の経済的格差を浮き彫りにしています。
この差がいかに大きいものであるかは、強調しても強調し過ぎることはできません。最貧国の平均寿命は、富裕国より30年も短いのです。(経済的に差の大きい国々の状況を比較したときに、学習の成果にも差があることも先ほど別の記事で取り上げました。)
世界的不平等な所得分布のどこに位置するかは、その人が世界のどこにいるかによってほとんどの場合決められます。
私たちの豊かな暮らしが、経済の力によって成り立っていることを自覚することは、世界の中での自分の立ち位置を知り、他者への理解を深めることに大いに役立つはずです。国によってこれほどの貧富のある世界では、その人が誰であるかということよりも、どこの人かということで、貧しいのか、裕福であるのかが決まってしまうのです。
このことをもっとイメージするために、国家間で貧富の差がない世界を想像してみましょう。もし、すべての国が等しく豊かであれば、どの国で暮らしていても、所得差がないことになります。
反対に今日の社会のように、国家間の格差が非常に大きい状況を考えてみましょう。この場合、どの国が自分の祖国かということだけで、人生が定まることになります。
エチオピアとデンマークの比較(下図)がこのことを明示しています。両国内の所得の分布は、基本的には全く重る部分がありません。デンマークに生まれた人は世界平均以上の所得があり、エチオピアに生まれた人はほぼ確実に世界平均以下の所得しかありません。
単純な2ヵ国の比較以外で、その人の祖国がどこであるかという違いによる、影響はどれほどのものでしょうか。
世界の所得格差について研究するBranko Milanovic氏はこの問題について、全体的に3分の2の割合で、出身国が所得の差を生み出しているということを発見しました。他の何よりも、どの国に暮らしているのかが、所得を決めてしまうのです。
家族が離れ離れになってしまうことや政治的制約など、さまざまな理由で、国境を超える人はごく少数にとどまっています。世界人口の大多数(97%)が生まれた国で暮らしています。即ち、世界のほとんどの人にとって、経済的豊かさを獲得できるかは、今住んでいる国というだけでなく、どの国に生まれたかという点にかかっています。
これまで述べてきたことは、決して個人の努力、才能、技能などを無視するものではありません。しかし、これら個人が持ち合わせる要素をすべて合わせて考えたとしても、経済的に豊かな国に生まれたかそうでないかの差は、個人の努力ではどうにもならないほど大きいのです。
人がどこに暮らしているかという点は、その人のすべてを考慮しても、影響が大きいのに加え、他の何よりも重要な点です。
所得の再分配と経済成長の重要性〜世界の格差是正と生活水準の底上げのために〜
今回取り上げたデータは、私たちの世界に関する3つの重要な事実を明白にしました。
・世界の経済格差は非常に大きいこと。
・経済的繁栄は、生活の質に大きく関わっていること。
・世界の富は不均衡に分布しているため、貧困に苦しむ人たちの力では現状を変えることができないということ。
これら3つの点から、何を見出すことができるでしょうか。
所得の再分配
国家による所得の再分配は、国内の格差を是正することに一定の役割を果たしていることから、国際社会においても、同様の効果が期待できるでしょう。しかしながら、どの国で税金を納めようとも、それは世界の最も貧しい人たちに行き渡らないのが現実です。政府が行う再分配は、あくまで国内に限られており、国際的な再分配ではありません。
より平等な社会のために貧しい人を助けたいと思うのなら、方法はあります。自分のお金を寄付すれば良いのです。
使えるお金が少し減ったとしても、生活できるでしょうし、何より私たちの寄付が、貧しい人たちの生活に大きな変化を可能性があるからです。
寄付を行う最も直接的な方法は、非営利団体のGiveDirectly へ寄付することです。GiveDirectlyは、貧困層に直接資金を届けることができます。他にも、最貧層を支援する慈善団体があり、寄付することができます。この記事の最後に寄付先の探し方と、私個人が行っている寄付方法について紹介させてもらいました。
経済成長
さらなる経済成長を達成せずとも、世界の格差を是正することで、貧困をなくすことができるという人もいます。しかし、実際はそうではありません。格差の大きい国際情勢の改善はとても意味のあることですが、所得の再分配だけでは、何十億という人々は物資不足が続く中、暮らしていかなければならないことも覚えておくべきでしょう。世界はまだまだ貧困をなくすことができるほど、豊かでは無く、経済成長が欠かせないのです。
貧困のない平等な世界を実現するためには、非常に大きな経済的成長を果たさなければなりません。
このことは世界の歴史を振り返るとよくわかります。2世紀前、世界は今よりもずっと平等でした。表の一人あたりのGDP、つまり平均所得はどの国でも低く、大多数の人はとても貧しかったのです。
数世紀の間に、いくつかの国は飛躍的な成長を遂げました。例えば、スウェーデンは200年前と比べて、約30倍も豊かになりました。一方で、他の国では状況が変わりませんでした。このように、発展の過程に大きな差があったことが、今日の格差に繋がっています。
現在の世界の貧富の差はあまりにひどい状況です。ここ200年ほどで発展を遂げた工業国に生まれた人々は、貧しい国に生まれた人々より、はるかに高い生活水準で暮らしています。何十億人もの貧困層が、豊かな暮らしをおくるための経済成長こそが、この格差をなくすために必要なのです。
過去に著しい発展を遂げた国々が存在していることが、地球上に暮らすどの人たちの国でも同様に実現可能であることを示しています。
具体的に妊産婦死亡率を例にとってみます。富裕国では、設備が整った病院で、出産時に医師や助産師が付き添うため、合併症など状況が悪化しても妊産婦が命を落とすことはほとんどなくなりました。(ここ数百年で、致死率リスクは300分の1に減少)しかし、それ以外の国では依然として状況は変わらず、毎年29.5万人の母親が子供を生んだ瞬間に命を落としているのです。
もし世界全体が富裕国のように、多くの母親が命を落とすことのない社会だったら、どうでしょうか。今年命を落とすかもしれない大半の母親の命が救われる事になります
これは実現可能であることはわかっています。なぜなら歴史的観点からそうだからです。今高い生活水準を享受している国々も200年、300年前にはとても貧しかったのです。
最後に
これまで取り上げたデータから見えてきたことは、経済の発展において、とても重要な話です。貧困は決して個人に関わる問題でなく、その人がどこの国の人であるかという点に大きく関わっています。知識や技能、勤勉さなど、個人的な要素をすべて合わせたとしても、経済大国に生まれたか、そうでないかという差から逃れることができません。
人々が素晴らしい人生をおくるためには、社会や経済が十分に全体的に発達する必要があります。これこそが本来の意味での”発展”であり、”成長”です。ごく一部の人が手にしているものを、この地球上のすべての人に行き渡るように変えていくのです。
謝辞:この記事に対する助言や、データの視覚化に取り組んでいただいたJoe HasellとTody Ordに感謝を捧げます。